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労働問題

【不当解雇・退職勧奨】

 表題の用語について、大雑把な感じで質問を受けることがあります。

 ここでは、法律家として、少しだけ詳しく触れてみます。

 

1 はじめに

 

 「不当解雇」という言葉は、曖昧で多義的な意味を含んでいますが、ここでは労働契約法(以下「労契法」といいます。)や労働基準法(以下「労基法」といいます。)などの労働関係法令に違反する解雇、つまり労使間における個別的労働紛争として、労働審判や労働訴訟で争われる解雇という意味でお話しすることにします。

 

2 「普通解雇」と「懲戒解雇」の違い

 

 世間でいうところの「クビになった。」というのが解雇です。労働者の側から辞める場合は、ここでいう「解雇」には当たりません。

 「解雇」には「普通解雇」と「懲戒解雇」があります。

 「普通解雇」とは、使用者の民法627条1項に基づく雇用契約(労働契約)の解約の申入れであるのに対し、「懲戒解雇」とは、労働者の企業秩序違反行為に対する使用者の懲戒権の行使であって、両解雇は本質的に異なると解されており、その有効要件は異なっています。

 

 よって、使用者からなされる「懲戒解雇」の意思表示の中に「普通解雇」の意思が当然に含まれていると解することはできません。したがって、労働審判や労働訴訟で、「懲戒解雇」のみが主張されているのであれば、「普通解雇」としての有効性を判断(つまり、「懲戒解雇」が無効でも「普通解雇」としてなら有効という主張を)することはできません。

 

3 解雇された労働者が「不当解雇」であると主張する場合

 

 使用者から解雇された労働者としては、使用者を被告として解雇の無効を主張し、労働契約上の地位確認と解雇後の賃金の支払いを請求するというパターが多くみられます。

 この場合、労働者が地位確認を求めるためには、

 ① 労働契約の締結、

 ② 使用者が労働者に対して解雇する意思表示をしたこと、

を主張することが必要となります。

 また、労働者が、解雇後の賃金を請求する場合には、

 ① 労働契約の締結、

 ② その労働契約における賃金額、締日及び支払日の定め、

 ③ 請求に係る賃金に対応する期間において労務提供が不可能となっていたこと、

 ④ その労務提供が不可能となったことにつき使用者に責めに帰すべき事由があること、

を主張していくことになります。

 その際、上記③及び④の内容として、「使用者に解雇されたが、その解雇は無効である。」等を主張してゆくことになります。

 

4 使用者の反論

 

(1)懲戒解雇の場合

 

 まず、就業規則に「懲戒解雇」についての規定があることが必要です。最高裁の判断によると、使用者は、労働者の企業秩序違反行為に対する懲戒の種類及び事由を明示的に定めて初めて懲戒権を行使できることしています(国鉄札幌運転区事件)。

 さらに最高裁は、懲戒の種類及び事由を明確にしたうえで、その就業規則が法的規範としての拘束力(労働契約を規律する効力ないし効果)を有するためには、その内容を事業場の労働者に周知する手続きが採られていることを要するとしています(フジ興産事件)。

 したがって、懲戒解雇が正当なものであることを主張する使用者としては、

 ① 就業規則に懲戒事由と懲戒手続が規定されていること、

 ② 懲戒事由に該当する企業秩序違反の事実が存在したこと、

 ③ その秩序違反の事実を理由に懲戒処分として解雇したこと(解雇手続きが適正なものであったこと)、

 ④ 予告期間の経過または解雇予告の除外事由、

を主張立証することが必要となります。

 なお、上記①の就業規則の懲戒に関する規定は、労働者に周知されていることが必要です。また、上記④の解雇予告の除外事由(労基法20条1項ただし書き)には、天災事変その他やむを得ない事由と、労働者の責めに帰すべき事由とがあります。

 ここに労働者の責めに帰すべき事由とは、原告である労働者が、解雇予告期間を置かずに即時に解雇されても仕方がないと認めるに足りほどに重大な違反行為があった事実をいいます。

 

 したがって、使用者が懲戒解雇の正当性を主張するのであれば、それを根拠付ける事実として、労働者の懲戒事由に該当する非違行為を具体的に主張していくことなります。

 

(2)普通解雇の場合

 

 「普通解雇」は、民法627条1項本文(当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。)に基づく労働契約(雇用契約)の解約申入れであり、同項によればいつでも解約できることになるはずです。

 

 しかし、確立した判例法理によれば、「普通解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当として是認できない場合には権利の濫用として無効となる。」とされている(日本食塩製造事件、高知放送事件など)。

 

 この判例法理を解雇権濫用法理といい、現在は労契法16条に、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして無効とする。」と明文化されています。

 この解雇権濫用法理は、労働者保護の観点から、使用者による解雇を容易に認めないという法理であることから、裁判実務においては、労働者から「これまで真面目に勤務してきた。」とか「いままで責任を問われるような失態をおかしたことはない。」などの概括的な主張があれば、解雇が権利濫用になることを根拠付ける事実の主張がなされたものとして扱い、使用者において、その反論として、例えば、勤務成績や勤務態度が著しく不良で職務遂行能力に欠けるなど、解雇権の濫用ではないことを根拠付ける事実(社会的に相当と評価されるような事実)を主張立証することが求められることになります。

 

(3)整理解雇

 

 「整理解雇」とは、企業が経営上必要とされる人員削減のために行う解雇をいいます。いわゆる「リストラ」です。「整理解雇」は「普通解雇(民法627条1項)」の一種であるとされていることから、その有効性の判断は、民法1条3項や労契法16条の解雇権濫用法理によって判断されることになります。

 

 ただし、「整理解雇」は、労働者に帰責事由がないにもかかわらず、使用者の経営上の都合により労働者を解雇するものですから、労働者に帰責性が認められる他の解雇よりもその有効性は厳しく判断されることになります。

 「整理解雇」の有効性については、リーディングケースとなった東京高裁の「東洋酸素事件」において、「整理解雇」が有効となるための4要件として、

 ① 人員削減の必要性、

 ② 使用者による解雇回避努力、

 ③ 解雇対象者の選定の合理性、

 ④ 手続の妥当性、

が必要であると判示しました。

 もっとも、その後、①については、会社の経営が黒字であっても、競争力強化のための人員削減も有効であるとし、②については、配転や希望退職者の募集、ワークシェアリングなどの解雇回避措置のすべてを要求するのではなく、その企業に実情の応じた適切な措置をとればよい、と考えられるようになり、現在では、「4要件」というよりも「4要素」として、総合的判断によりその「整理解雇」の有効性(解雇権濫用の該当性の有無)を判断するというのが、裁判例の主流となっているといわれています。

 

 ただ、「整理解雇」の有効性を緩やかに判断するようになったというわけではなく、諸般の事情を総合考慮して判断するというだけで、労働者の保護が薄くなったというわけではありません。

 

 少し難しかったですね…

 

 解雇された従業員の主張だけではなく、解雇した側の会社の主張もあるわけですから、何の準備もなく、会社に対して「不当解雇だ!」と主張するのではなく、あらかじめ法律の専門家に相談しておいたほうが良さそうですね。

 

 では、もう一つの用語です。

 

 「退職勧奨」とは、使用者が労働者に対して、辞職を勧めること、または、使用者から労働者に対してなされた「労働契約(雇用契約)の合意解約の申込み」に応じるよう勧奨すること、を意味します。

 「退職勧奨」は、それによって何らかの法的効果が発生するものではありませんので、それ自体は事実行為として、使用者の自由であるというのが裁判例です(東京高裁「日本アイ・ビー・エム事件」、東京地裁「リコー子会社出向事件」など)。

 ただし、退職勧奨行為が、社会的妥当性を逸脱するような半強制的なものであったり、執拗なものであったりした場合には、労働者は使用者に対し不法行為による損害賠償請求ができることとされています(最高裁「下関商業高校事件」、東京高裁「エール・フランス事件」、東京高裁「日航雇止め事件」等々)。

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