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労働問題

【パワハラの証拠】

 パワハラを証明するために必要な証拠とは?

 セクシャルハラスメント(以下「セクハラ」といいます。)行為は密室で行われることが多いのに対し、いわゆるパワーハラスメント(以下「パワハラ」といいます。)行為は、他の部下の面前で叱責する例も多いとはいうものの、実際には、被害者の立証手段が供述に限られることが多く、パワハラ行為の存否、態様などに関する事実認定が困難である場合が多いといわれています。

 

 したがって、被害者の供述の信用性が大きなカギとなり、供述内容と他の客観的証拠との整合性、供述内容の一貫性や合理性、具体性などが検討されることになります。

 セクハラであれパワハラであれ、いずれの行為にしても、その具体的内容や態様に関する証拠が重要となりますが、その実際的な証拠収集方法としては、録音媒体や継続的に記録したメモや日記、ハラスメントの加害者とやりとりしたメールなどが想起されるところです。

 まず、録音テープの証拠能力については、一般的には証拠能力(証拠として用いることができること)を有しますが、著しく反社会的な方法を用いて収集されたものであるときは、その証拠採取方法自体が違法と評価され証拠能力を否定されることなると解されています。

 

 一般的には、セクハラやパワハラ行為の証拠を採取するため、被害者が加害者と会話をする際に、自己のポケットにスマートフォンやICレコーダーを忍ばせて録音するような事例であれば、まだ反社会的方法であるはいえないでしょうが、必ず適法と扱われるわけでもないですから、注意が必要です。

 次に、被害者自身のメモや日記は、それ自体の証拠能力が否定されることはありませんが、客観性に欠けるところがあるので、その信用性が問題となってきます。

 

 裁判例には、被害者から提出されたハラスメントのことを記載した書面につき、「それが毎日の出来事が記載されたものではないこと、被害者がほかに当時悩んでいた問題もあるのにそれらに関する記載がほとんどないこと、複数の日にわたる記述の外見的な印象が似通っており、これらを同一日にまとめて記載した可能性を排斥できない。」ことなどを指摘して、信用性を否定したものもあります。

 

 日記やメモは、ハラスメントを受けた後、できるかぎり速やかに記録しておくことが肝要です。

 

 その都度その都度、記憶が新鮮なうちに感情的になるのを抑えながら、日時・場所・態様・状況(周囲に居た同僚のことなど)などを具体的かつ明確に記録しておけばおくほど、その証明力(証拠としての信ぴょう性)が増すと理解しておいください。

 とくにパワハラの場合は、セクハラの場合とは異なり、それが適切な注意や指導の域を超えており違法と評価される行為である、との主張が必要となってくることに注意してください。

 

 上司が部下に対して、部下の業務上の失態や職務態度の不良を指摘し、その改善を求めることは、むしろ上司としての職務でもあるのですから、上司の部下に対する叱責行為が、社会的相当性の範囲を逸脱した違法な行為であると評価されなければ、損害賠償請求の根拠となるパワハラ行為と主張することができないのです。

 

 「心理的負荷を過度に蓄積させるような行為は、原則として違法である」ものの、「その行為が合理的理由に基づいて、一般的に妥当な方法と程度で行われた場合には、正当な職務行為として、違法性が阻却される場合がある。」という裁判例もありますので、パワハラを訴える労働者としては、自分が主張しているパワハラ行為に関しては、そのような例外的な合理的理由がなく、一般的にみて妥当な方法と程度で行われたようなものではないことが明確になるように主張立証することが必要となってきます。

 

 ハラスメント行為の態様、行為者の職務上の地位、年齢、被害者と加害者とのハラスメント行為があるまでの関係、行為の場所、周囲の状況、その言動の内容、言動の反復継続性など、諸般の事情を具体的か明確に主張できるよう記憶が鮮明なうちに記録しておいてください。

 

 これに加え、パワハラの場合には、職務行為の範囲を画定する必要があるので、職務の内容、性質、危険性の内容・程度も考慮して、上司に叱責が指導の範囲外であること、つまり違法なパワハラであることを明らかにする必要があることも銘記してくだい。

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